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諸国漫遊記
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 7月末に予定されていたウェスの試合は10日程前にキャンセルとなった。その時は特に理由などは聞かなかった、もはや毎度のことであるからだ。しかし、その数日後、マイクから留守電にメッセージが入っていた。
「ウェスの試合が決まった、8月2日だ。場所はフィラデルフィアだ。この試合、テレビ中継になるかもしれないぞ!とりあえず詳しくはジムで話そう。」
(フィラデルフィアか、、、)
 そのメッセージを聞き終えた時、私の気持ちは少し重くなっていた。
 
 フィラデルフィア、この街と私はどうやら相性があまりよくはないらしい。
 去年、仕事の都合でフィラデルフィアへ訪れたことがあった。その際に受けたイヤの印象は未だ強く残っている。理由はあえて書きはしないが、それはその街の雰囲気であったり、そこで出会った人々でもあったり、またひどく個人的なもの、でもあった。そしてあの時は最後までこの街に馴染む事ができなかった。はたして今回はどうなるのだろうか、、、


 試合前日、私達はいつものようにバス・ステーションの側で待ち合わせをした。NYからフィラデルフィアまでは2時間程で着くにもかかわらず、朝8時頃に時間を決めたのはウェスが前回、遅刻したためなのだろうと思われた。あの時はマイクが激怒し、ウェスは言葉なく、沈んでいたのを思い出す。はたして今回はどうなるのだろうか、、、
 20分の遅刻だった。
 10分程、前回よりも記録を縮めた、今度は二桁をきることができるか?前回と全く同じ彼等の姿(マイクが怒り、ウェスが落ち込む)を見て、ぼんやりとそんな事を思う、、もはや、この事に関しては考えまい、きっとこれはこのさき永遠なのだ。
 今回はバスに間に合ったため、彼の遅刻はバスに乗る頃には何事もなかったかのように過ぎていった。彼等はこれを繰り返してゆくのだろうか?
 私はマイクに待っている間、ウェスが言っていた事を聞いた、
「この試合、前日計量だって本当なの?」
「ああ、ペンシルバニア州ではそうらしいんだ。俺も知ったのはつい最近だ。」
「、、、それもUSAではたいしたことじゃないのかな?」
「もう、試合ができればそれでいい。」
 もはや考えまい。
 バスがフィラデルフィアに入ったころ、マイクは私に言った、
「いいか、ここはNYじゃないんだぞ。外で簡単に金なんか数えるんじゃないぞ。周りをよく見るんだ。」
「俺、既に2回ここに来たことあるんだよ。知ってる、ダウンタウンは結構、危険なんでしょ?最初、ホームレスの数の多さにビビったよ。」
 笑いながら私はそう彼に答えたが、結局は私がマイクの言っていた事をある意味、理解しきれていなかった、そう、この時に気付くべきだった、、、



 試合当日、私達は朝9時頃、ホテルの宴会室のような場所で行われる計量へと向かった。この日の試合はESPN2で放送される事になっていた。メインは何かのタイトルがかかったフェザー級タイトルマッチで、そのセミとしてウェスは出場し、試合の進行状況によっては彼の試合も放送されるかもしれない、ということだった。しかしそれは彼のための放送ではなく、彼の相手のためのものだった。彼の相手はフィラデルフィア出身で戦績3勝2KOの無敗らしい、マイクは私に言っていたことを思い出す、「今度の試合はタフだ。」と。つまりこういうことだったのだ、ウェスは相手のプロモーターから手頃な選手として呼ばれ、ここは私達にとってアウェーということだ。
 それでは何故、マイクがこの試合を組んだのか、と言えば、理由の一つにテレビ中継のある試合で露骨な地元判定はないだろうという思惑と、何よりウェスにこのような状況の経験を積ませたかったからだろう。
 計量で見たウェスの相手ウェスの相手は彼よりも少し背が低く、色が黒く、そして若い、黒人の選手だった。幾分落ち着きがないように見えたのはその若さからか。
 彼等は共に計量を無事済ませ、私達は自分の部屋へと引き上げた。後は試合の時間が来るのを待つだけだ、が、一つ私達には定かではないことがあった。それはウェスが4Rで戦うのか、それとも6Rなのか、未だ決定されていないことだった。そしてそれが決定されたのはウェスがリングへと立つ10分程前のことだった、、、

 「このラウンドでこの試合が終わらなければ、君たちの試合は4Rだ!」
 忙しなく動くESPNのADが私達に言った。
 マイク達はそれほどラウンド数にこだわってはいなかった、ただ早く決めて欲しかっただけのようだった。私は当然のごとく、しばし呆然としていた(前日計量といい、このことといい、、、ある意味において彼等はたくましい)。全てはテレビ局が中心で進み、変わる、のだ。マイクがそういえば以前言っていた、
「日本ではボクシング界とヤクザは少なからず今でも関係しているんだろ?(マイクは日本のヤクザ映画などが好きである。)この国も昔は、まぁ、今もそうだがマフィアがそれにあたるな。しかし今、本当に怖いのはテレビ局だ。アイツ等は全てを今、コントロールしている。」
 試合は判定までもつれ、ウェスは4Rで戦うことになった。そして同時に放送されることも決まったようだった。入り口でADの呼ぶ声が聞こえた。

 第1ラウンド、ウェスはいつものように距離をとり、右肩を揺らして、相手の入ってくるタイミングを読もうとしていた。相手は立ち上がりはかなり固く、大振りのフックを何度か打ってきたが、ウェスに当てることはできなかった。そして相手が構え直した時、彼はウェスと同様サウスポーなのだと初めて気付いた。そしてウェスにとってサウスポーとの対戦は初めてだったことも。ラウンド終了のゴングが鳴った。
相手のパンチは当たらなかったが、アグレッシブルさの目立つラウンドだった。
 「何やってんだ、バカやろう!バケツをしっかりおけ!」
 私は試合をじっくりと見すぎていたため、そしてまた、椅子を置くのに手間取ったため、バケツをおく仕事をおろそかにしてしまった。緊張ではなかったが、セコンドの仕事に対し、慣れ始めている、という慢心がそこにあったのは間違いない。
 ウェスは中々左を出さなかった。それは出せない、のではなく、出さなかったのだ。相手に予想以上のパンチ力があるのだろうか?そうではない、ウェスは待っているかのようだった。ジャブを使い、足を使い、待っていた、何かがくるのを、、、
 しかしそれは何であるのかはこの第2ラウンドでも、まだ見えてはこない。固さがほぐれてきた相手は常に先に手を出した。しかしそのいずれもウェスにダメージを与えることはできなかった。が、このラウンドのポイントを奪うには十分だと思われた。
 ウェスの左ストレートをボディに受け、相手は顔を歪めた。第3ラウンド、ウェスがこの試合、初めてと言ってもよいだろう、自分から攻撃を仕掛けた。相手はその同じボディを受けると、ピタリと一瞬、動きが止まる、相手はそのパンチが見えていないようだった。しかし、ウェスもその後のパンチが出ない、相手にダメージを与えるまでには至らない。相手に疲労が見え始めた所でこのラウンドが終わる、ウェスには疲労は見られなかった。
 「このラウンド、お前は取らないと負けるぞ!いいか!前に出るんだ!行くんだ!」
 マイクの言ったことは正しいように思われた。確かに、ウェスは相手のパンチをほとんどもらってはいない、が、しかし同時に有効に見える程、当ててもいなかった。
第3ラウンドはおそらく取れただろう、しかし最初の1,2ラウンドは、、、何よりもここは相手の地元なのだ、判定を考えるなら、イヤ、勝つためには、、どちらにしても、この最終ラウンド、ウェスのしなければならないことは誰に目にも明らかだった。



 前日、バスがフィラデルフィアに到着すると、そのすぐ側にあるコンベンション・センター(私はここで去年2度、トレード・ショーのため働き、イヤな思いをいろいろとした、思い出の詰まった場所。誰にでもそんな所が一つはありませんか?)の前で私達は迎えが来るのを待っていた。
 15分後、白人でこの試合のプロモーターの男が車に乗ってやってきた。私達をホテルまで連れて行ってくれるらしい。いろいろ(前日計量やラウンドのことまたは最近の話題についてなど。)とマイク達が話しをしている中、車は小さな病院のような所で止まった、健康診断だけは先にここで済ませるらしい。
 その待合室で私は彼に話しかけた、
「初めまして、今回ウェスのセコンドを手伝うものですが、、、、」
 私はそう彼に挨拶し、そしてセコンドのパス以外にクレデンシャル(取材パス)も取れないだろうか、と彼に尋ねた。その時、私はその理由や自分の事などいろいろと話していたが、マイクが途中で遮るようにして「心配するな!それは後だ!」と、強い口調で言われたため、私は黙ってしまった。
 そしてそのプロモーターの男は電話をかけるようにしながら外の方へ出ていってしまった。
 マイクは凄みながら私に言った、
「お前、分かってんのか?アイツは俺達の相手のプロモーターなんだぞ!余計なことをべらべら喋るな!大体なんでクレデンシャルまでいるんだ!?」
「それは、、」
 それは、テレビ中継のある日はクレデンシャルがあれば試合前後にデータやスコアなどがもらえると思ったからで、この日のことを書くのに役に立つものがあるかもしれないとも思っていたし、、、などと、もはやマイクには言えなかった。
 そう、それは全部建前だった。
 本当は最近、自分が世界戦や他の試合でクレデンシャルを手に入れてきたことにより、できてしまった慢心と、その機会をここでも得られるのだ、ということを彼等にも見せたい、ある種、認めてもらいたいという、願いがさせた悲しい行為だった、、、
 バスの中でマイクが私に言った言葉が不意に思い出された、、、

 判定の細かい所は聞き取れなかった、が、ウェスが初めて負けたことは確かだった。
 マイクの表情にも、私の表情にも、観客達の表情にも驚きはなかった、最後のゴングが鳴った時点でそれはほとんどの者に分かっていることのようだった、そしてそれは多分、ウェスにも、、、
 最終ラウンド、相手は変わらず前に出てきた、息は確かに荒かった。そこにウェスのチャンスはあった。しかしウェスはチャンスが見えるその瞬間、瞬間に危険も同時に感じてしまう。そして彼は攻めることではなく、守ることを選び続けてしまった。
そしてそのままこのラウンドが、この試合が終わってしまった。
 負けたと思えるような内容の試合ではなかった、しかしまた、勝ったとも思える試合でもなかった。ウェスは最終的には守り続け、また、待ち続けていた。
 マイクはウェスに言う、
「お前は何故、いつも行かないんだ、、何故、、お前、このままじゃ、ジャーニーマンになるぞ、、、」
 ウェスは何も答えなかった。

 私はこの試合までの間、またも多くの間違いを犯した。そして今、もしも私にできることがあるとすれば、それはその間違えを認めることだけなのかもしれない。そうすることで、少しでも何かを先に繋げていくしかできないのだと思う。
 ウェスはどうだったろう、この日の負けを認めることはできただろうか?
 
 ウェスの試合での姿を見て、彼が一体、何を守り、何を待っていたのか、
 この日、私には最後まで分からなかった。

———終わり
文:中屋一生 mail
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