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諸国漫遊記
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 15分程タクシーは走ると、黄色い街灯の明かりが頼りなく灯っている薄暗い場所でスピードを緩めた。
「あそこが入り口だよ。」
と運転手が声をかけてきた。その方向には倉庫のような建物があり、そこから明かりが漏れていた。やはりここでも街灯の明かりが少ないため、いやに漏れた光が目についた。

 運転手はその建物から少し離れた場所に車を止めた。そして「じゃ、気をつけてね。」と言っている、どうやらその倉庫のような会場の前までは行ってはくれないらしい。その周りには何をするでもなく、半分以上が半裸の男達が群がっていて、確かにとてもではないが車が入り込む余地などなさそうだった。距離にして僅か20メートル、しかしその20メートルが遠く感じられた、どうやら僕はあの男達の合間を縫わなければならないようだ。

 僕が料金を払い外に出て歩き出すと、早速数人の男達が近寄ってきた。
「チーノ、チーノ!」
 と、皆で叫びだす。チーノとはスペイン語で中国人をさす、と言うよりもアジア人??見かければ彼等は必ずそう呼ぶのだろう。頼む、ほっといてくれ、と心で叫び、しかし叫びは届かず、彼等はさらに近づいてくる。数が数人から二桁に乗る頃にこれはひょっとしておもわしくない状況ではないのかと感じ始めた、縫い歩く隙間が全くなくなってしまったからだ。
「ナニしてんだ、お前。」「ナンのようだ」
 僕はみなぎる緊張感をできるだけ隠した。
「いや、チーノじゃなくてハポネス(日本人)、で、ボクシング見にきたんだけど会場はあれ?」
「おー、お前ハポネスか、ボクシングか!そうだあそこが会場だ。」
 彼等の中の一人が周りに聞こえるようにそう言うと、僕を会場入り口まで連れて行ってくれた。拍子抜けはしたがもしかしたら彼等はあまりアジア人など見たことがないため物珍しさから僕に親切に接してくれたのかもしれない。

 入り口にはジャッケットをきた関係者と思える男が他の人間達と何やら話し込んでいた。僕がここまで来た旨を伝えると彼は言った、
「ああ、お前がメールのハポネスか、入っていいぞ。席はあそこだ。」
 その他のニカラグアンと比べると少し肌の白い中年の彼がこの試合のプロモーター、マルセロ・サンチェスだった。彼はオフィシャルと観客を分ける柵で区切られているリングサイドを指差した。
 僕は席に座り、入り口でもらった試合のカードが書かれた紙を見た。隣に座る30前後の若い青年に聞くと今はまだ第3試合目のようだった。

 会場を眺めてみると、観客は6、7割程の入りだったが蒸し暑さと人の熱気に包まれていた。僕はまたその隣の若い青年に聞いた、
「アルゲリョは会場に来ているのかな?」
 拙いスペイン語で僕が聞くと彼は流暢な英語で答えた、
「いや、彼は多分来ないと思うよ、今彼はマナグア市の市長補佐をやっていて忙しいと思う。」
 それはタクシーの運転手も言っていた、アルグエョは引退後、国のため政治家となったのだ、と。どうやら今夜、彼が来る望みは薄いようだ。
「もし来たら話しなどを聞くことが出来るだろうか?」
「忙しくしているとは思うけど少し位なら大丈夫だと思うよ、素晴らしい人格の人だから。」
 ニカラグアのテレビ局で働いているらしい彼のその話しを聞いた後、それからはもう僕はアルゲリョが来ることを”待ちながら”試合を見ていた。それは明らかにマナグアに来た目的が変わっていたとも言えた。

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 リングの上ではフライ級程の体格の選手達が果敢にお互い打ち合い、それにつられ観客達も大いに盛り上がりを見せていた。その会場は家族連れ、学生らしき男女のカップルも見かけたが大半は仕事帰りのような男達で溢れていた。僕はその大半の男達の大半がボクシングの試合をしっかりと見ていることに驚かされた。彼等は試合を目で追い、歓声、罵声をリングに浴びせていた。彼等は酒のつまみでも、付き合いの為でもなく本当にボクシングの試合を見る為に来ているのだと僕に感じさせた。それはある種の新鮮な感動であった。

 しかし、そんな中、後ろの席の方で二人の中年の男達が口論し始めた。それは次第に殴り合うケンカへと変わっていったのだが、何故か周りも警備員もすぐには止めず互いを交互に2,3ずつ互殴り合った所で警備員が二人を羽交い締めにした。そこまでの出来事ならアメリカの会場でも頻繁に起こっていたので、ああ、ここでもやっているんだなぁ、位のもので見ていた。しかし警備員とケンカの元となったように見える男が2,3話すと何事もなかったかのように警備員はその男のもとを去り、男の方はその場に再び座り、ケンカ相手も自分の席へ戻って行った。僕はてっきり二人ともつまみ出されるものと思っていた。それはまるでどこかの道ばたで起きた出来事のようだった。

 また試合を見る観客達に対しても今までとは違ったものを感じていた。それが何なのかと言えば彼等の格好だった。僕が今まで訪れてきた会場ではどこでも華やかな格好をした観客達が、特にリングサイドには多く見られた。そのような光景を見るたびに僕は日常から離れた非日常的な華やかさを会場内に感じたものだが、しかしこの会場内にいる人々はおそらく本当に仕事帰りにそのまま来たのだろう、Tシャツやジーンズ、ポロシャツなどごく日常的な格好で、着飾った観客など皆無に等しかった。

 そんな風景を見ていると、もしかしたらここではボクシングの試合は彼等にとって日常からの延長にすぎないのではないか、と僕は感じていた。僕はこの会場で非日常を求めに来る観客ではなく日常的にボクシングを観戦する人々の風景を見たのかもしれない。それはとて?も新鮮なものだった。
 そしてまた、僕はずっと以前からまた違った違和感を感じていた。あの会場の外、いやひょっとしたらこの街についた頃からそれは既に始まっていたのかもしれない。何か独特の今までに感じたことのないものがこの街にはあり、それはこの会場内でも漂っていた。しかし、僕はこの時、それが何であるのかまだ分からなかった。

 そのようなことをぼんやりと僕が考えている時、テレビ局の若い男が聞いてきた、
「ところでチョコラテは日本でどうだ?」
 チョコラテ?スペイン語でチョコレートのことだから、どうしてると言われても、日本でニカラグアのチョコレートなど聞いたことがない、、、
 僕は最初意味もわからずに、「皆よく食べてる」などと答えた。彼は笑って、違うよ、と言った。彼が言っていたのは、先日、日本の帝拳ジムとプロモート契約したニカラグアの選手ローマン・ゴンザレという選手のことだった。チョコラテとは彼のニックネームだったのだ。

 その後、マナグアに滞在する間、何度も耳にすることになる彼、ローマン”チョコラテ”ゴンザレスはこのニカレグアにいてアルゲリョを超える素材とも言われる程の国民が期待する次期世界チャンピオン候補のボクサーだった。彼は帝拳とのプロモート契約後、11月3日に後楽園ホールでの日本デビュー戦で過去2度世界タイトルに挑戦した経験もある、エリベルト・ゲボンを初回KOし、日本に衝撃を与えたという。

 後に気付いたのだけれどタクシーの運転手や会場の周りの男達が言っていたのはこのゴンザレスのことだったのだ。確かに何度かチョコラテと言っていたのを聞いたような気もする。彼等が何故日本人と聞いて優しくなったのかも何となく分かってきた、きっと僕が”チョコラテ”ゴンザレスに関すること、またはその関係の人間でこの会場に来た日本人だと勘違いしたからだったのかもしれない。今思うとここまで来るのに結果的にはスムーズにいったような気がしないでもないでもなかった。

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 ちなみにこの日のメインはもう一人のゴンザレス、チョコラテと同じ名のレネ・ゴンザレスという選手の試合だった。
 試合はレネ・ゴンザレスが序盤から相手を圧倒し、4回にKOして終わった。そして結局、アルゲリョは最後まで来なかった。しかし落胆ばかりはしていられなかった、これから宿まであの道をまた帰らなければならないのだ。そんな時あのテレビマンの彼が僕を宿まで車で送って行ってくれると言ってくれた。

 彼はゴンザレスにインタビューをして機材を片付けた後、僕と仲間のカメラマンと共に外に出た。
 そこでは、やはり何をするでもなく男達が来たときとは比較にならない程の数で会場の周りをたむろしていた。こうしてみると外にいた人間も中にいた人間もたいして違いはないように見えた。
 彼等をかき分け、僕等は車の前まで歩いて行った。この時ばかりは人も多く、誰も僕の存在に気がつかなかったか、または同じニカラグア人と行動を共にしていたためか、誰も僕には寄っては来なかった。

「ニカラグアの試合どうだった?」
 車に乗るとカメラマンがそう聞いてきたが、アルゲリョを待っていてあまり見ていませんでした、とも言えず、「いやー、アグレッシブルでした。」などと阿呆のような当たり前のことしか言えなかった。
 車の中でテレビマンの彼はアルゲリョに連絡してみることを約束してくれ、宿で連絡を待つようにと言ってくれた。
「それじゃあ、明日の10時までに連絡を入れるから。」
 宿に着くと、そう彼は言い帰って行った。
 しかし、多分10時には電話はこないだろうな、そう思いながら僕はマナグアでの初日を宿で沈むようにして眠った。
文:中屋一生 mail

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